白馬大雪渓 社会実験プロジェクト
消えゆく大雪渓
2024年夏、日本三大雪渓の一つである白馬大雪渓が完全に消失した。万年雪として数百年、数千年かけて蓄積されてきた雪が、私たちの目の前から姿を消した。
これは景観の喪失ではない。雪渓が守っていた斜面は崩壊し、土砂が河川に流出し、登山道は閉鎖された。大雪渓の消失は、山が水を蓄える仕組みそのものの崩壊を意味している。
雪不足は、水不足である
2026年冬、日本は全国規模の渇水に直面している。
- 20府県・40ダムで貯水率が平年未満(2026年2月時点)
- 15水系18河川・湖で取水制限を実施中
- 愛知県・宇連ダムの貯水率が0%に到達(2026年3月)。底水をポンプでくみ上げる緊急措置
- 神奈川県が30年ぶりに渇水対策本部を設置(2026年3月)
- 西日本太平洋側の1月の降水量は平年比9%——1946年の統計開始以来、過去最少
これは一回限りの異常事態ではない。2019-2020年の記録的暖冬でも同規模の渇水が発生しており、わずか6年で再発している。構造的な問題である。
なぜ「雪崩」なのか——科学的根拠
雨が降っても、雪として山に蓄えられなければ水資源にはならない。Scientific Reports(Nature)に掲載された研究は、2020年の記録的暖冬を分析し、降水量が多くても気温が高ければ雪にならず、積雪水量が観測史上最低を記録したことを報告している。
環境省・国立環境研究所の研究(A-PLAT)は、北アルプス圏を含む中部地域で気温上昇→積雪水量減少→融雪時期の早期化→春から夏の水不足という因果関係を示している。水が必要な時期に、水がない。
この問題に対し、科研費プロジェクト(KAKENHI-PROJECT-20K06301)は「融雪を遅らせること」自体が気候変動への適応策になることを学術的に示した。
雪崩によって堆積した雪は、自然積雪よりも密度が高く、融解速度が遅い。つまり、人工雪崩で砕かれた雪を谷に堆積させれば、雪は夏まで山に残り、ゆっくりと溶けて大地を潤す。これが「天然の白いダム」の原理である。
社会実験で検証すること
本プロジェクトは、白馬大雪渓を舞台に以下の仮説を実証する。
1. 融雪遅延による水資源の安定供給
- 人工雪崩により大雪渓に雪を計画的に堆積させ、融雪時期を遅らせる
- 春から夏(4〜8月)の灌漑期に、安定した融雪水が供給されるかを検証する
- 融雪量・河川流量・水質の継続的なモニタリング
2. 斜面保護と土砂災害の抑制
- 雪渓の存在が斜面崩壊を抑制する効果を定量的に評価する
- 土砂流出量と下流域の濁水発生状況を計測する
3. 山岳環境における気候変動適応モデルの構築
- 日本初の3,000m級山岳での人工雪崩による水資源管理技術の実証
- 他の山岳地域に応用可能な適応モデルとしての知見の蓄積
「遠くの氷河が溶けることを憂うことも大切ですが、自分たちが住む地域で起きている現実に目を向けてください。雪崩を『災害』から『恵み』へ。私たちは、自然の力を借りて、この問題に取り組みます。」
一般社団法人アルプス雪崩研究所
代表理事 森山建吾