3つの社会課題
気候変動により、日本の雪国は未曾有の危機に直面しています。
気候変動により、日本の雪国は未曾有の危機に直面しています。
特に山岳地域では、これまでの常識が通用しない新たな課題が次々と顕在化しています。
私たちは、科学的データと現場の知見をもとに、これらの課題に向き合っています。
深刻化する水資源不足
白馬大雪渓、2年連続の登山道閉鎖が示す危機
- 2023年、2024年と2年連続で白馬大雪渓の登山道が閉鎖
- 夏季の雪渓が完全消失(2024年10月)
- 年間を通じた積雪量が過去100年で減少傾向
雪不足がもたらす連鎖的影響
農業への打撃
- 春から夏(4〜8月)の灌漑期に深刻な水不足
- 2025年夏、稲が枯れ、野菜が不作となる事態が発生
- 農業用水の確保が地域の死活問題に
生活用水への影響
- 夏季の渇水リスクが年々上昇
- 水源の多様化が急務に
観光産業の打撃
- 登山道閉鎖による山小屋や関係機関への経済損失
なぜ雪が減っているのか
山に積もった雪は、春から夏にかけてゆっくりと溶け、河川の流量を維持している。積雪から融雪、河川流量の増加までには60〜90日のタイムラグがあり、この遅延効果が渇水期の水供給を支えている。しかし気温の上昇により、雪として蓄えられるべき降水が雨に変わると、この「天然のダム」が機能しなくなる。2020年には日本の南部多雪地域で、36河川流域のうち8流域で積雪水量が観測史上最低を記録した。雨が降っても、雪として山に蓄えられなければ水資源にはならない。
出典: Katsuyama et al. (2020) Scientific Reports / 国土交通省「少雪・暖冬傾向における水資源への影響について」
若林隆三先生の言葉通り、「雪は天然の白いダム」です。
この天然のダムが機能不全に陥ることは、地域社会の存続に関わる問題なのです。
予測不能な雪崩リスクの増大
従来の経験則が通用しない新たな雪崩
- 気温の乱高下による不安定な積雪層形成
- 異常高温による全層雪崩の早期発生
変化する雪崩の特徴
発生時期の変化
- 従来:春季に全層雪崩、湿雪雪崩の発生
- 現在:暖冬により12月〜条件が整えばいつでも発生するように
スキー場内でのリスク増大
- 管理区域内での予期せぬ雪崩発生
- ゲレンデコース内での全層雪崩の発生
- 斑尾高原スキー場(2026年2月):営業開始以来初めての雪崩が発生し、5名が巻き込まれた。これまで雪崩が起きたことのない場所でも、斜度と条件が揃えば発生しうることが示された。
- 栂池高原スキー場(2026年1月):リフトでの事故により、22歳の女性が亡くなるという悲しい事故が起きた。
いずれも、スキー場の安全管理のあり方が問われる事例となっている。
予測の困難化
- 積雪内部の複雑な温度勾配
- 雨と雪が交互に降る特異な気象パターン
- 過去のデータが参考にならない事例の増加
雪崩管理技術の継承危機
失われゆく専門知識と経験
- 雪崩管理専門家が少数
- 後継者不在の地域:日本全域
なぜ技術継承が進まないのか
人材不足の構造的問題
- 専門技術習得に最低5年以上が必要
- 冬季限定の仕事による収入の不安定さ
- スキーヤーの減少
知識の断絶
- 暗黙知に依存した技術伝承
- 体系化されていない経験則
- 地域固有の知識の消失
変化への対応の遅れ
- 新しい雪崩パターンへの対応方法が未確立
- AI・IoT技術の導入の遅れ
- 国際的な知見交流の不足
このままでは何が起きるか
雪不足によりスキーシーズンが短縮し、雇用期間が短くなっている。賃金が高くない中で安全管理の責任は重く、担い手が集まりにくい状況が生まれつつある。
さらに、シーズンが短いことで雪崩に対応する経験を積む機会も限られている。一方で一度の雪崩は大規模化する傾向があり、現場で求められる判断力は高まっている。
この構造が続けば、安全対策が追いつかなくなり、事故のリスクがさらに高まっていく可能性がある。
3つの課題は、実は1つにつながっている
統合的アプローチの必要性
これらの課題は独立した問題ではありません。
水資源不足 ↔ 雪崩リスク ↔ 技術継承
↘ ↓ ↙
気候変動への適応力低下
だからこそ、私たちは統合的な解決策を提案します。
- 雪崩を水資源として活用 → 水不足の解決
- データに基づく予測の構築 → 新たなリスクへの対応
- データと技術の共有 → 次世代への継承
私たちの取り組み
これらの課題は、個々のスキー場や自治体だけで解決できるものではない。
専門的な知見と、現場で培った経験を持つ組織が、
継続的に取り組んでいく必要がある。
この認識のもと、アルプス雪崩研究所はこれらの課題に向き合っています。